ぼくは甘い。自分にも甘いけれど、こと女の子には甘すぎるくらいに甘い。けれどもそれは優しさとか寛容さではなくって、ぼくは結局のところ、彼らについてほとんど諦めているということだ。もう期待することは止した、まあ実際の話、まだきちんと諦めきれてはいない。けれどもそれだって時間の問題のはずだ。少しずつ染みこんでいく、ぼくはもう彼女たちのことを信じない。だから甘くなっていく一方だ。大抵の裏切りや嘘では傷つかなくなるだろう。その代わり愛することもできなくなる。それは抗いようのないことだったのだ、ぼくが信じて、彼女らがそれに背く限り、ぼくはそういった道を辿らざるを得ない。これは自明だ。
どうしてそんなに優しいのかしらと言った女の子が居た。ぼくは当時、自分のことを優しい男だと思っていた。けれどもそれは幻想なのだ。もし次会うことがあれば告げるだろう、ぼくはこれっぽっちも優しくはないのだと。きみに対して誠実ではあれなかったのだと。ぼくは最後まで、自分に対する誠実さで精いっぱいだったのだ。誠意の絶対量は決まっているのかもしれない。それを全て自分に注いでしまったのだ。
*
久しぶりに晴れたから、早い時間に部屋を出た。大学でこれを書いている。平和な午前だ。おろしたてのTシャツは柔軟剤のいい匂いがしている。匂いが好きだと言われる、それは何の匂いのことだったのだろう。雲はうんざりするぎりぎり手前のところ、絶妙な穏やかさでゆっくりと過ぎていくし、学生は皆晴れやかな顔をしている。ぼくは友人を待ちながらいろんなことを考えている。考え事は浮かんでは消え、また浮かぶ。いろんな人のことを、いろんな自分のことを思う。
*
憧憬はある。ぼくが発しているそのもののぼくを、まったく同じニュアンスで受け入れてくれるような状況、そうしてぼくも又、彼女のことを、同じように信じるだろう。そういったケースがもしあったらどれだけ安心できるだろうと思う。けれどもおそらく、そんなのは有り得ないのだろう。わずか残る微かな希望にも、ぼくは縋るのが心底恐ろしくて仕方ない。もう本当に、ぎりぎりのところなのだ。余裕のある男性になりたいと常に思っている。時間に、金に、生活に。けれどもぼくには余裕はなかった。いや、物質的にではない、ただそれよりももっと根本的な部分において、ずいぶんと窮屈な思いをしていた。真皮が爛れている。ぼくにはそれを感じることができる―火傷のような痛みだ。
*
悲しみは水のように、さらさらと流れている。擦りむくと血が出るように、ぼくは水のような悲しみを垂れ流しているのだ。それが尽きることはない、水脈はぼくの底の無い絶望の先まで続いている。逆立ちしたって、どれだけ美しい女の子と寝たって、それを止めることは出来ない。であれば、ぼくはそこに甘んじるしかないのか?どうなのだろう、悲しむことはつらいことだ。もしも本当に、何も言わない温かさがあるのなら、いや、うーん、駄目だ。研究会のことをしこしこと続けることにしよう。埒なんてそもそも明くるものではない。根なぞ無い。気の毒な男である。
0 件のコメント:
コメントを投稿