2014/08/02

青い麦

 昼下がりの畦道を自転車でゆっくりと走ると、青い麦という言葉が浮かび、そういったタイトルのコレットの小説を思い出した。しかし内容はほとんど思い出せなく、ただその小説に染み付いた情景と、いま自分の含まれている風景とがマッチせず、同じ青い麦でもかくも違うものかと妙な感動に耽った。音楽を止めて周囲を見渡すと、真っ青な夏の大海原に、無数の虫たちがあらん限りの叫びを尽くしていた。悪くなかった。照りつける太陽は異邦人の、かののんびりと緊迫した銃声を思わせたが、不都合なことに、そこには海はなかった。ただ只管に広がる空の青色に、海原を連想させることも不可能ではなかったのかもしれない。カフカの短編集だったか寓話集だったか、忘れたが登場する測量家?だっただろうか、旅行家だっただろうか、思い出せないがとにかく、見知らぬ土地で不気味な風習に出会うことの、ある種快感にも似た感覚を想像する・・・無論いまぼくのいるのは、ぼくの故郷であるが、だからこそ思うのだ・・・つまり、まったく所縁のない土地でしか味わえないあのエキゾチシズム、下腹部の奥からじんわりと昇ってくる感覚は、えもいわれぬ印象を孕んでいる。

 エキゾチシズムはゴーガンをも思い起こす。悩ましい臀部をひねった褐色の女たち・・・タヒチから帰った知り合いが土産に紅茶を寄越した。当時紅茶を好まなかったぼくは、それをきっかけに飲むようになったのだった。彼はいま、大学院で物理学を極めんとしている。

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 眠りから脱け出してきて、ぼんやりとした頭でこれを書いている。タオルケットに包まって、仰向けになってこれを書いている。
 
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 本屋でTOEICの問題集を買おうとして止めた。それから芥川の魔術の収録されたものを買おうとして、これも止めた。ほとんど持っている話ばかりだったからだ。それから幸田露伴と迷って、トマス・マンの長編を買った。戻ると親父の本棚に同じものがあった。ぼくは上下巻とも買ってしまったことを悔やんだ。今思えば、ぼくはその、親父の本棚にあるものを予備校生のころ読んだのであった。すっかり失念していた。ぼくはほとんどのことを忘れてしまう。

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 眠気がまた訪れた。おやすみなさい。

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