どうしようもない恐怖が冷気のように床を伝ってぼくのところにやってきた。玄関からゆっくりと流れてきたそれは、ぼくの足を、腿を、腰を、背を、首を冷やしながら、最後には身体中をすっかり冷たくしてしまった。音楽は遠のいた、鼓膜が強張る感覚、ぼくはどうにも肌に触れたいと思った。見境なく千切ってしまいそうな気がした。衣服を剥ぎ、皮膚を剥ぎ、骨肉を粗方触り果てて、ようやく眠りにつけるような気持がした。恐怖を恐怖によって掻き消そうという作用だったのかもしれない。ぼくの異様な憂鬱は、確かにぼく自身に因るものであった。ほかの誰も、何も、悪くはない。何故ならば、なるほど実際、ぼくは生きている限りあらゆる環境要素と関わりあって暮らさざるを得ないところにあれど、しかし結局のところ、自分の振る舞いそのものを最後に決めるのはほかでもないぼく自身であったからだ。ぼくが選んでいるのだから、すべての現象は、ぼくの周りに起こるすべての現象は、ぼくに責任があるのだった。仕方ないことだ。抗いようのない大きな力を感じる、ぼくはそれに覆われるのをじっと待つことしかできない。恐ろしいことだ、分かるだろうか?得体の知れない、大きな、大きな、気が遠くなるほど、ぼくらの想像の範疇からはまったく把握の仕様もない、それは大きな真っ黒のヴェールが―材質も特性も時間も分からないヴェールが―ゆっくりと向こう側からやってくるのだ。冷気を送り込んだ風上にわずかそのヴェールが見えるのは、橙の微光が後ろから照らしているからであった。じれったいほどに、それこそ永遠と思えるような時間をかけてじりじりとぼくの身に近づいてくるヴェールは、やがてぼくの身を完全に覆い尽くしてしまう。そこには過去のみが渦巻くだろう。純然たる罪悪を丹念に濾過した重油のようなエッセンスが、ぼくの全身に泥沼のようにまとわりついてくる。
毛布のように、ヴェールにくるまり外界とまるで隔絶されたぼくには、もう何もない。これはパラドクスだ、孤独を望んだがために、ぼくは孤独を失うのだ。そうして同時に、孤独を手に入れた。女の言葉が蘇る。ぼくは吐いた、胃が躍り、食道が震え、彼女らによって植え付けられた罪の意識を吐いた。大昔の幾つもの匂いが吐瀉物を形成していた。ぼくはもう駄目かもしれない、あまりに消耗され過ぎた。彼女らに対して、正しい認識を求めるのは不毛ならずも罪悪だ。彼女らはまったく何も認識してはならないのかもしれない。つまり、はじめから黙っていればいいのだ、しかしそこまで門戸を開いてみても、その程度に利口なのも居やしない。ぼくはどこで間違ったのだろうね。全く駄目だ。
毛布のように、ヴェールにくるまり外界とまるで隔絶されたぼくには、もう何もない。これはパラドクスだ、孤独を望んだがために、ぼくは孤独を失うのだ。そうして同時に、孤独を手に入れた。女の言葉が蘇る。ぼくは吐いた、胃が躍り、食道が震え、彼女らによって植え付けられた罪の意識を吐いた。大昔の幾つもの匂いが吐瀉物を形成していた。ぼくはもう駄目かもしれない、あまりに消耗され過ぎた。彼女らに対して、正しい認識を求めるのは不毛ならずも罪悪だ。彼女らはまったく何も認識してはならないのかもしれない。つまり、はじめから黙っていればいいのだ、しかしそこまで門戸を開いてみても、その程度に利口なのも居やしない。ぼくはどこで間違ったのだろうね。全く駄目だ。