十月が終わって、十一月がやってきて、朝晩が冷え込むようになって、厚手の服を着るようになった。新宿駅を出て、甲州街道をのたりと歩きながら陸橋の欄干に持たれて、眼下を歩く人々の様子を眺める。ぼくは婦人物の香水を買って、手渡された手提げをバッグに入れて型崩れさせるのも嫌な気持ちで、そのまま手に提げていたのだけれど、それが少し恥ずかしかった。四時の新宿は、軽薄な色をした粒子が濃密な霧となって支配していた。ぼくは音楽を聴くのをやめて、じっと街の音を聞いていた。
脇の喫茶店で焼きたてのトーストとアメリカン・コーヒーを注文して、女の子のことを考えた。彼女はいまどこにいるのだろうか。日本を想像して、世界を想像した。彼女はもう二度と、ぼくと会うことも、会話をすることもないかもしれない。
それから別の女の子のことを考えた。
トーストは美味しかった。シナモン・トーストも食べたくなったが、なんだかやめた。品性の問題だ。コーヒーを飲みきるまでゆっくりと本を読んだ。サキの短編集だ。高校のときに一通り読んだはずが、中身はまるで覚えていなかった。
ゆっくりと人生は過ぎていく。
Can't Buy Me Love.
いろんな思いが頭の中を巡るが、ひとまず風呂に浸かろう。寒くなると、一日に何度も風呂に浸かりたくなるのだ。何事についても、人にあまり期待はしないほうがいい。
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