今日はまあ、細々としたことを済ませた。試合は結局雨で流れた。皮肉にも昼過ぎに外はよく晴れて、夕方にダンスサークルの最終公演後の友人を労いに出かけた後、喫茶店で課題を進めて、八時ごろから友人と後輩と共に大戸屋で晩飯を食った。そのあとマクドナルドでコーヒーを飲みながら本を読んだ。ぼくのちょうど背後の席には同じ大学の、知り合いではないが名前を知っているという程度の男が一人で黙々と何かを考えている様子だった。彼はきっと面白い男なのだろうと思う。けれども声はかけなかった。ぼくにも黙々と考えるべきことがたくさんあったからだ。
ある授業の課題で、臓器移植や同性婚に関する意見を書かされた。驚いたのは、高校時分の意見とほとんど変わっていないことに気が付いたときだ。ぼくは悲しくも嬉しくもあった。いろいろなことを踏まえて変わっていないのか、それともただ何も動きがないだけなのか、ぼくには分からない。あるのは文字に起こされたぼくのオピニオンのみだ。
隣の席に座っていた女の子の匂いがすごく素敵だった。彼女は眼鏡をかけていた。ワンピースを着ていた。マッキントッシュに向かって難しい顔をしていた。中間課題の時期だ。音楽を聴いていないところと、髪の黒いところと、アディダスのスニーカーを履いているところに好感が持てた。彼女は本当に良い匂いがした。
窓の外を老人が歩いて行った。よれた煙草を咥えて、濁った眼で前を見ていた。老いというのは難しい問題だ。彼だって半世紀前にはぼくのような若者だったはずだ。だのにどうして、彼はそんなに変わってしまったのだ?
変わってしまう。
ぼくも、背後の彼も、隣の彼女も。
ぼくはきっと猫背が増して、彼の髭は白くなって、彼女の匂いは失われる。
変わってしまうのだ。
*
ゆっくりと重厚な音楽が流れている。ぼくは阿呆だ。ゆっくりであれ、それは確かに流れている。何かの小説で出てきた城郭都市のイメージを思い出す。高く頑丈な漆喰の壁が歪な形で街を囲っているだろう。住民はおそらく出入りを制限されているだろう。甲冑の騎士たちが門番をしているだろう。それは共同体としては不動でありながら、その内部ではそれぞれが細胞のように蠢いている。そういう街だ。
*
涙を見ると苛立つ。帰りのベンチでアベックの女が泣いていた。ぼくは腹が立った。どうして泣くのだ?それでは何も見えやしないだろう。目を見開け、老人のように、今すぐに涙を拭って、いかなる形でもいい、前を見ろ。
ぼくだって泣きたいんだよ。くそったれ。
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