2013/09/12

また夢で逢いましょう


 嫌な夢を見た。ぼくはどこかの空港のラウンジで紅茶を飲んで、国際線でまた別の国へと飛んだ、その道中、つまり飛行機の中で、あの強烈な匂いのする不味い機内食を平らげ、一本の映画と一冊の小説を読んだ。
 辿り着いた島国で、ぼくはすぐ大型客船に乗船した。広々としたシャンデリアの食堂には美しく着飾ったMが居た。彼女はぼくの顔を見てすぐ、極めて不快そうな表情を浮かべ、踵を返して姿を人波の中に消した。ぼくは独りだった。周りはドレスにタキシード、ぼくはポロシャツにジーンズという有様であった。船内ではサザンが流れていたが、Mとの邂逅の直後、それはレーナード・スキナードに移った。ミスマッチだった。スウィート・ホーム・アラバマ。髭のマスターは横浜できっとTシャツを吟味しているころだろう。

 どうして彼女はぼくを避けたのだろうか。したがって言えば、今度の反応は嘘か誠か、遂にぼくには判別の仕様が無くなってしまったのだ。双方向の足掛かりが同じような形状をしてぼくの左右に浮上して、それが丁度相殺するようにぼくのことを惑わせた。彼女は何を思うのだ?

 愛について思うことはひどく簡単だ。しかし正しく愛について思うことは、極めて難しい。それは理屈ではほとんど語ることができない。美哀に満ちたその奇妙な領域に入ろうとするとき、ぼくはいつも酒を飲んだような気分になる。

 朝、起き上がって割れた携帯の画面を確認する。確かにそこにはぼくの記憶通りのメッセージが残っているのだ。けれども…ぼくは混乱し切っていた。よくない兆候だった。

 喫茶店に赴いて小説を広げても、まるで集中ができない。一時間粘ったが駄目だった。ぼくには身のやり場がなかった。ふつふつと欲望が湧き上がってきた。或いは雨のように、欲望が降ってきた。知らぬ間にぼくはある音楽を口ずさんでいる。曇天の街を歩きながら、Nowhere Manを思っていた。Sitting in his nowhere land...!

 いや、或いはそれでもいいのかもしれない。また夢で、或いは夢でない何処かで。

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