2013/10/31
2013/10/28
誠実さとはなにか
中途半端に酒を飲んで、しかも思いもよらぬ言葉をかけられて、気持が落ち着かず眠れないから、音楽を聴きながら朝の訪れるのを待っている。レコードを静かに回し続けている。鈍く重たい、熟れた果実のような眠気を背中に感じながら、ぼくは誠実さについて考えてみようと思う。
「こんな人が世界にはいるのかと思うほど、誠実だと思ったの」
酔っ払った彼女はそうぼくに告げた。どんな表情をしていたのか、どんな気持だったのか、どんな格好をしていたのか、ぼくは知らない。ただ、酒に酔って受話器に向かって叫んでいただけなのかもしれない。けれども確かにそう告げたのだ。誠実?
ぼくは誠実でありたいと思ってきた。今までずっとそれだけを考えていた。正直であること。
けれども、それゆえに、ぼくは多くの人を傷つけ、また、ぼく自身も深く傷ついた。中にはもう、永久に消えそうもない傷もある。ぼくは誠実であろうとするために、或いはそれが間違った姿勢の取り方であったとしても、取り返しのつかない悲しみに暮れてきた。
誠実さとは何か。ぼくはその問いを彼女に投げかけられたのかもしれない。無論、あの態度であれば、おそらく彼女はぼくのことを誠実であると信じているのだろう。ぼくは果して、誠実なのだろうか。ぼくは本当は、都合の良いようにふるまっているだけではないか。つまり、理屈をこねてあらゆる不誠実を正当化しているだけではあるまいか。
ぼくは本当に誠実なのか。
正直であるとはどういうことか。どうして誠実さを目指して女の子を傷つけるのか。そうして又、誠実さを目指すが故に、かくも絶望的な気持にならねばならぬのか。
誠実さというのは、本当は不要なのではないだろうか、とさえ思うのだ。つまり、女の子とぼくとがお互いに幸せであるためには、誠実さよりもバランスが大事なのではないか。ときには正直であり、ときには嘘をつかねばならないのではないか。
「本質を見よ」と言ったのはイワセ先生だ。中学一年の終わり、渡英して間もないぼくに向かって彼はそう告げ、そうして日本人補習校を去った。
誠実さの本質はどこにあるのか。
まだ酒が抜けきらない。頭は少しぼうっとしたままだ、しかしこれは眠気の所為かもしれない。
誠実さというのは、純粋なエゴイズムと表裏一体だ。少なくともぼくの場合はそうではないか。つまり、誰かを思いやるために正直であることよりも先に、自分にとって誠実でありたいと思うところのほうが強いのだ。誠実さを崩せば、ぼくはぼくでなくなってしまう。これは偏に、ぼくのコンプレックスだろう。弱い人間は、頭の中で頑丈な壁を作り上げなければならないからだ。
ぼくは自分自身に大きな自信と誇りを持っている一方で、どうしようもなく惨めで弱いのだ。それを自覚している。だからこそぼくは誠実さという隠れ蓑の中で、いつまでもじっとしているのかもしれない。
混乱している。けれども一つだけ確かなことがある。考えたところで変わりようのない事実、十年間も抱いてきた夢が今、現になろうとしているという、幸せのことだ。
2013/10/26
24頁の藁椅子
秋の夜長に降りしきる細く静かな雨のように、ぼくの過去は一滴ずつ丁寧に、坂道のアスファルトを打って滑って、下りきると川の濁流に流れ込んで、汚れた多くの泥と一緒に、江の島海岸に向かって流れていく。霧のような街灯の明かりに照らされて滑り落ちていく。アスファルトの表面に、薄い膜が張っているようにも見える。ぼくはその様子を、過去が音も無く奪われていくような様子を、マンションのベランダから見ている。それらはもうぼくのもとには無いのだ。残るのはその余韻と記憶と、微かな匂いだけなのだ。煙草を吸い終えるとぼくは、マンションの正面を通るその坂道に向けて吸殻を投げた。せめてもの手向けだ、と思う。室外機の上に置いた盆にはウイスキーグラスと文庫本が置かれている。氷がからんと音を立てた。湿った空気に妙な乾燥が一縷、走った。ふやけた文庫本は四十年近く昔に印刷されたものだ。ぼくはこの薄い小説が好きだった。グラスを手にすると半分ほど残った中身を全て坂道に向けて撒いた。せめてもの手向けだ、と思う。それから鍋で焼かれる幾つもの卵のことを思った。パンを切らしていたが、彼は下まで降りて買いに出かけるのが面倒で、やめたのだ。
*
厄介なのは、たいていの物事について、足元から落ちていってしまったあとになって、それが一体何だったのか判明するという事実だ。
*
ソノムラと夕飯を食べた。彼は相変わらず面白い男だった。就労意欲はない、東大の院に進む準備をしているところだと言った。故郷の金沢には長いこと戻っていない。
「本を読んでも忘れてしまうんだ、だからおれは女を抱きたい」
彼はときどきもっともらしいことを言う。
「でも女のことも忘れてしまうのかもしれない」
ソノムラは本当に本をよく読む男で、まさにリアリストでもあった。
*
忘れてしまう。たいせつなことも、ハイライトしたはずの一節も、女の子の仕草も、名画のワンシーンも、記憶の坂道を雨になって滑り落ちていく。分厚い雨雲の垂れこめた夜空を見上げるたびに、ぼくは絶望的な気分になった。だのに、記憶の零れ落ちたあとの窪みには、必ず悲しみが染みのように残っているのだ。生きるたびに、落とすことのできない悲しみが、増えていく。
ソノムラの言うことはある意味では正しい。
どうせ忘れてしまうのだ。そうして、どうしようもない悲しみだけがそこには残るのだ。
ぼくは安心した、恐れることはないのだ。
2013/10/24
レーズンベーグルの時間
眠気はある。眠たいとは思う、けれども寝つけない。暗闇の音がじいっと耳をつんざいて、壁で反射したそれとさらに追ってくるものとが共鳴して振幅はますます増長し、みるみる大きな雑音となってぼくを睡眠から遠ざける。ぼくはそのたびに寝返りをうったり、別のことを考えようとする。けれども無駄だ。彼方からやってくる得体のしれぬその波はぼくの部屋の中で無限大に増幅し続ける。ぼくはたまらず音楽をかける。少し和らぐ、でも、それだって無駄だ。曲が終わればノイズは思い出される、束の間、それを隠しているだけに過ぎない。
この生活から脱却するためには、この状況から脱却する必要がある。しかしぼくにはその術がない。それがぼくの弱いところだ。ぼくはぼくの力でここから脱け出すことができない。
*
よくものごとを忘れる。記憶力が無いことを自負している。もしかしたらそれは、無意識のうちで忘れようとしているのかもしれない。過去とは、記憶とは、結局のところ自分を苦しめるものでしかないということを、ぼくはぼくの意志とは無関係に行っているのかもしれない。
*
口の中がとても渇く。中学で一緒だった女の子の噂を聞いた。彼女は誰とでも寝るらしい。ぼくの旧友のうちの何人かも、彼女と寝ているのだという。ぼくは嫌な気分になった。誰も信じることはできないと思った。別に悪いことではないだろう。しかし、どうしてそれを酒の肴にできるのだろう。ぼくには理解ができなくて、笑えなかった。彼らは乳房の話をしていた。下劣だと心から思った。きみたちは日ごろから全裸でいたらどうなんだ?品性の問題だ。
*
品性の問題なのだ。そうして品性とは、ただしい認識に基づくものであるはずだ。
*
ぼくは今、とても気分が悪い。誰とも話したくないし、誰にも会いたくない。でもそうはいかない。明日は朝から授業だし、夜には研究会でグループワークだ。はっきり言って、嫌で仕方ない。だって眠れないのだ。ノイズは豪雨のように降り注ぎ、ぼくには息継ぎをする暇さえ与えられていない。
2013/10/21
文章*
ろくでもない音楽ばかりだ。彼女は音楽をほとんど聴かないと、片瀬江ノ島駅のホームで言った。それが正しいのかもしれない。少なくともぼくにとっては、音楽は悪い薬でしかないのかもしれない。
楊枝の山を指で突いてみた。それは思いのほか頑丈で、ほとんど動かない。関西の大学で構造力学を学んでいる高校の同級生を思い出した。彼は学校祭でヴァイオリンを演奏した。鮮明に覚えている、けれども演目は思い出せない、不思議なものだ。音楽…。
煙を吹きかけてみる、やはりびくともしない。雨は止んだ、明日は晴れるといい。
新宿、彼女は深夜バスで遠くの街まで戻ろうとしていた。真夜中の酒臭い雑踏の中で、またぼくらも酔っていて、改札でじっとお互いを見た。これも不思議だ、何も言葉は要らなかったし、紅潮した彼女の頬に座る温かさも、それに触れずとも理解することができた。彼女のことを見ながら、何も変わらないのだなと思った。変わったのはぼくの身長だけだ。同じくらいだった身長が、今や一尺近く違っていた。提げていた彼女の荷物を渡すと、やっぱり重いね、ありがとうとこちらを見上げた。彼女は綺麗だ、と思った。それは変わらないことだ。十年前、バスの背もたれを抱え込んで見下ろした後ろの座席に、微笑んでいた。なにも変わらない。化粧は上手だし、髪の毛も丁寧に手入れされている。趣味の良い服装をしていて、仕草も心なしか大人びた。けれども、変わらないのだ。
ぼくは本当に驚いた。(03:23)
*
妙な吐気と共に目を覚ます。
信じることは正しいことだろうか。ぼくは自嘲気味に野村克也の言葉を思った。「信が大事だ、信頼、信用、自信…」信じることは大変なことだろうなと思う。それは根源的で、なおかつ、どこか救いの無い繰り返しのようなものだ。信じても信じても、底はない。信じきるというのはどういうことか。
つまり、こうだ。ぼくは彼女の言葉を信じていいのか。
ぼくは彼女の言葉をどういった側面から信じるべきなのか。
あるいは、軽薄であるべきなのだろうか。
カーテンの隙間から光が漏れいる。二日ぶりの晴れ間が淡く青褪めて流れている。頭はぼうっとしたままだ。熱いシャワーを浴びて大学に向かおうと思う。(10:03)
*
学食で声高に話すハーフ顔の男がいる。ストール、ヘッドフォン、顎鬚。都内の某女子大との間で行った合コンの模様が聞こえてくる。ひどい内容だ。またぼくの認識が崩れようとしている。それを感じる。楊枝の山は認識の世界で揺らぐのだ。女の子で遊ぶということがどうにも苦手だった。何度か試したことはある。けれども、だめだった。どうしてもうまくいかないのだ。相手をどうしようもなく傷つけるか、或いは虚しい気持になって、結局ビートルズを聴きながらたくさんのシャワーを浴びた。
ぼくは多くを望まない。多くを望む権利がないと思うからだ。けれども、ただぼくはまともでありたい。まともな人と関わりたい。
彼は大声で、処女性について叫んでいる。
ぼくは彼女を信頼するべきなのか?(14:19)
つまり、こうだ。ぼくは彼女の言葉を信じていいのか。
ぼくは彼女の言葉をどういった側面から信じるべきなのか。
あるいは、軽薄であるべきなのだろうか。
カーテンの隙間から光が漏れいる。二日ぶりの晴れ間が淡く青褪めて流れている。頭はぼうっとしたままだ。熱いシャワーを浴びて大学に向かおうと思う。(10:03)
*
学食で声高に話すハーフ顔の男がいる。ストール、ヘッドフォン、顎鬚。都内の某女子大との間で行った合コンの模様が聞こえてくる。ひどい内容だ。またぼくの認識が崩れようとしている。それを感じる。楊枝の山は認識の世界で揺らぐのだ。女の子で遊ぶということがどうにも苦手だった。何度か試したことはある。けれども、だめだった。どうしてもうまくいかないのだ。相手をどうしようもなく傷つけるか、或いは虚しい気持になって、結局ビートルズを聴きながらたくさんのシャワーを浴びた。
ぼくは多くを望まない。多くを望む権利がないと思うからだ。けれども、ただぼくはまともでありたい。まともな人と関わりたい。
彼は大声で、処女性について叫んでいる。
ぼくは彼女を信頼するべきなのか?(14:19)
2013/10/20
For the dead hours of the night
Cはぼくの左側を必ず歩いた。どうしてもこちら側が落ち着くのだと言って、和歌山城を散歩したときも、神戸の夜を練ったときにも、烏丸駅からレストランまで歩く間も、ずっとそうだった。そうして彼女は手先が乾燥していた。この時期になると大変で、と、よくハンドクリームを塗っていた。
気が付いたことがある。
Mも必ずぼくの左を歩くのだ。そうして手先が乾燥しがちで、切れてしまうこともあると言った。だから彼女は、寝る前に肌の手入れを念入りに行う。髪だって長いから、風呂を出てから寝支度を済ますまでに随分と時間がかかるのだ。湯冷めするなよ、と言うと腹巻をしているから大丈夫だと笑った。(08:02)
近頃すごく寒い。
*
じっと考えていると、瞬く間に週末が終わってしまった。鍋の誘いを断り、酒も断り、そのほとんどを一人で過ごした週末。今日は朝から雨が滴り、宛ても無く広がりゆく自室の床に寝転がって天井を見上げてみたり、珍しく筋力トレーニングを丁寧に行ったりした。ただ一人の人間に支配されて身動きが取れなくなったぼくの何某とは裏腹に、彼女の何某はまるで気にもなっていないようだ。少なくともぼくにはそう見える。
なんだかみっともないのだ。そう思う。筋が埋まって見えなくなった腹を撫でながら考える。何も手に着かない。それはけれども、ふわふわと不安定に浮遊するような状況が続いているからで、これがきちんと決着されさえすれば、ぼくはきちんとまたもとのように歩むことができるはずなのだ。何しろずっと酔っ払っているようなのだ。そうしてそれは、誰に因るものでもないのだ。ただ時間が過ぎるのを待つしかなく、そうしている間にきっと秋は終り、為す術もないままに、冬が空から緞帳のように降りてくるのだろう。足元に重たく薄く伸びたその匂いは、乾いた街を滑るようにして、ぼくのことを忘れてしまうのだろう。
ぼくは一体、何を望むものだろう。ぼくは結句一人では駄目なのか?虚しい気持のまま、夜の街に出かけようと思った。(20:11)
*
塵のような雨がときおり街灯に照らされて白くぼうっと光る。寒さの中、パーカーのフードを被って身をかがめ、煙が帯になって竜のように空に浮かんでいく様を眺めていた。うねりながらそれは明りひとつない黒い色をした空にむかって昇って行った。ぼくはその竜をめがけ、口に残る煙を吹きかけた。気が付くと傍らに猫が座っていた。彼はぼくをじっと見ていた―たまたまそのように見えただけかもしれない。ぼくは嫌な気分になって立ちあがり、部屋に戻った。彼女の匂いを思い出しながら。(23:52)
*
塵のような雨がときおり街灯に照らされて白くぼうっと光る。寒さの中、パーカーのフードを被って身をかがめ、煙が帯になって竜のように空に浮かんでいく様を眺めていた。うねりながらそれは明りひとつない黒い色をした空にむかって昇って行った。ぼくはその竜をめがけ、口に残る煙を吹きかけた。気が付くと傍らに猫が座っていた。彼はぼくをじっと見ていた―たまたまそのように見えただけかもしれない。ぼくは嫌な気分になって立ちあがり、部屋に戻った。彼女の匂いを思い出しながら。(23:52)
2013/10/18
10/16,17
ぼくはその一言を聞くためだけに生きてきたようなものだ。
はっきりと思い出す。煙草の煙も霧消して、ウイスキーの酔いもすっかり醒めて、最後には彼女だけがそこに残る。深夜、小田急の蒸し暑さの中で、ぼくはドアにもたれ掛ってじっと考えていた。ぼくはまさにそれだけのために暮らしてきた。そうしてそれは、確かにはじまりであるはずだった。いや、そうしなければならない。新宿駅の改札で、彼女は耳元にそう告げたのだ。
…言葉にならない。文字に起こすことは、ときにかくした障壁を感じさせる。表現することでそれはたしかにはじめて保存され得るのかもしれないが、けれどもぼくにはそれを文字にする為の手段が無い。そり立ったアイスランドの岩山を思い出す。ぼくにはその瞬間の気持を言葉にすることができないのだ。ただひとつ言えるのは、ぼくにはもう、ひとつしかないということだ。
2013/10/10
サイケな
ぼくは女の子を泣かせることでしか愛を感じることができないのかもしれない。或いは、女の子に嫌われることでしか愛を感じることができないのかもしれない。熱で溶けて歪んだままに固まったぼくの愛は目の下に隈を消さずにぶら下げて、ぼくは傷つけて傷つけられてはじめてその人に猛烈に惹かれるのかもしれない。けれどもそれは間違いだ。それはぼくをこういう具合にしてしまう。ぼくは駄目になってしまう。
サンドウィッチとヨーグルトを食べて、腰が重い。大学に行かなくちゃなあ。行きたくない。音楽を聴いて一日を過ごしたい。何も思うことはない。ただぼくはじっと座っていたいのだ。外は風が強すぎる。
2013/10/08
2013/10/07
僕と彼女と週末に
経験というものについて考える必要があると思うわけ。経験とは何か。経験は必要なのか。ぼくはね、経験という言葉そのものに対する認識が甘いように感ずるわけだ。つまり、ろくでもないものを経験と名付けて崇拝し、本質をあたかも探り当てたような気でいながら、実は本当の本質はその影に隠れてさらに、これまでよりもずっと深いところに落ちて行ってしまっているのかもしれない。それは恐ろしいことだ。ぼくらは震災を、戦争を追体験した気でいながら、結局生きているのだ。
はっきり言って、経験なんてえのは大したものではない、とぼくは思うわけだ。無論、ジャンルには依ろう。表面的に、例えば利益を上げるためには、現場の経験というのはモノを言うはずだ。けれども、死者について考えるとき、経験なんてものは全く意味を成さないはずだ。ぼくはそう信じる。これはナマケモノの負け惜しみでは決してない。心の底から思っている。経験?ならばぼくは死ぬべきだ。そうは思わないか?
昨日は二試合で5打数3安打。藤沢市リーグでは今季通じて13打数8安打。打率.615。全身の筋肉が軋むように痛い。大学に行こう。
はっきり言って、経験なんてえのは大したものではない、とぼくは思うわけだ。無論、ジャンルには依ろう。表面的に、例えば利益を上げるためには、現場の経験というのはモノを言うはずだ。けれども、死者について考えるとき、経験なんてものは全く意味を成さないはずだ。ぼくはそう信じる。これはナマケモノの負け惜しみでは決してない。心の底から思っている。経験?ならばぼくは死ぬべきだ。そうは思わないか?
昨日は二試合で5打数3安打。藤沢市リーグでは今季通じて13打数8安打。打率.615。全身の筋肉が軋むように痛い。大学に行こう。
2013/10/03
文章
爪楊枝を半分に折って、真白なテーブルに置いた。それを毎日毎日、暇の限りに続けた。無数の爪楊枝(の残骸)は少しずつ山を形成し始めた。或る夜、初恋の彼女のことを想いながら楊枝を折ると、いつもよりも乾いた音がした。そうしてそれをテーブルに置いた時、山が思いのほかうず高く、美しいものになっていることに気が付いた。横に置かれたシガーケースや、或いはデジタルアラームよりも背丈は高かった。ぼくはブランデーをぐっと飲み干すとその山を眺めた。
急峻な崖の表面は、複雑に絡み合った楊枝がささくれ立っている。長短さまざまなそれぞれが、妙に間抜けで見とれてしまった。ぼくはエディ・ヴェダーを流して、もう一杯ブランデーを飲んだ。煙草は我慢した。間違いなく、ぼくは彼女のことを考えている。
どういうわけか、異邦人の一節を思い出した。ムルソーは自室のバルコニーから通りを眺めている。見下ろすとそこには、当然のように街の景色が広がっている。暇を持て余す彼は、昼過ぎから昼下がり、日が沈むまで、じっとこの通りを見ているのだ。まるで今のぼくのようだ。そう、そこにこそ太陽は現れ、それに目が眩むのかもしれなかった。異邦人をぼくは、毎年大晦日に読んだ。ここ二年近く読んでいないかもしれない。少しずつ変わっているのだろうか。いずれにせよ、この楊枝の山にはムルソーも上ろうと思うに違いなかった。シーシュポスでなくとも、そこに神秘性がなくとも、確かにこれは、ぼくの眼前に立ちはだかる絶壁は、彼に対する山であった。(00:05)
*
早朝の微睡みの末、故郷の夢で目を覚ました。夕方、畦道を歩いていた。ぼくのほかには誰もいない。淡く青く澄んだ秋の空はその遥か高くに鱗雲をはりつけて、徒に飛んでいく鳥の群れを見下ろしている。そうしてぼくは、宛ても底も知れない黒く渦巻く欲望を腹の奥で感じるのだ。やりきれないその塊を。日が傾いて、本来ならばすぐにでも夕刻の橙に包まれるところ、その夢には時間の経過がないようで、ずっと、空の色は変わる気配が無かった。それはぼくをひどい絶望感に晒した。いつしかぼくは夜を望むようになっていたのか?肌が痛く感じられた。欲望が内側からやってくる感じだ、張り裂けそうな肌の痛みはやがて快感に変わった。スニーカーの立てる乾いたアスファルトの音は振動になり、痛みになり、ぼくの頭の中を走り回ってやまない混乱のことを、心なしか和らげてくれるのかもしれない。
目を覚まして、ぼくはじっと考えた。もう諦めてしまった方がいいのかもしれない、と。実態の無いものごとに心を焦がれて疲れてしまうよりも、もっとソリッドな姿勢を保つべきなのではないか。例えば、今日の研究会に向けて、或いは、もうじき始まる就職活動について。ほとんど実体のない女性に拘泥することに、果たして意味はあるのだろうか。
しかしまあ何とも、ロジックは通用しそうにもない。
ぼくは電話を待つ。古今東西の音楽を穴倉に垂れ流しながら、それを待つ。
…待つしかないのだ。(09:28)
*
早朝の微睡みの末、故郷の夢で目を覚ました。夕方、畦道を歩いていた。ぼくのほかには誰もいない。淡く青く澄んだ秋の空はその遥か高くに鱗雲をはりつけて、徒に飛んでいく鳥の群れを見下ろしている。そうしてぼくは、宛ても底も知れない黒く渦巻く欲望を腹の奥で感じるのだ。やりきれないその塊を。日が傾いて、本来ならばすぐにでも夕刻の橙に包まれるところ、その夢には時間の経過がないようで、ずっと、空の色は変わる気配が無かった。それはぼくをひどい絶望感に晒した。いつしかぼくは夜を望むようになっていたのか?肌が痛く感じられた。欲望が内側からやってくる感じだ、張り裂けそうな肌の痛みはやがて快感に変わった。スニーカーの立てる乾いたアスファルトの音は振動になり、痛みになり、ぼくの頭の中を走り回ってやまない混乱のことを、心なしか和らげてくれるのかもしれない。
目を覚まして、ぼくはじっと考えた。もう諦めてしまった方がいいのかもしれない、と。実態の無いものごとに心を焦がれて疲れてしまうよりも、もっとソリッドな姿勢を保つべきなのではないか。例えば、今日の研究会に向けて、或いは、もうじき始まる就職活動について。ほとんど実体のない女性に拘泥することに、果たして意味はあるのだろうか。
しかしまあ何とも、ロジックは通用しそうにもない。
ぼくは電話を待つ。古今東西の音楽を穴倉に垂れ流しながら、それを待つ。
…待つしかないのだ。(09:28)
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