Cはぼくの左側を必ず歩いた。どうしてもこちら側が落ち着くのだと言って、和歌山城を散歩したときも、神戸の夜を練ったときにも、烏丸駅からレストランまで歩く間も、ずっとそうだった。そうして彼女は手先が乾燥していた。この時期になると大変で、と、よくハンドクリームを塗っていた。
気が付いたことがある。
Mも必ずぼくの左を歩くのだ。そうして手先が乾燥しがちで、切れてしまうこともあると言った。だから彼女は、寝る前に肌の手入れを念入りに行う。髪だって長いから、風呂を出てから寝支度を済ますまでに随分と時間がかかるのだ。湯冷めするなよ、と言うと腹巻をしているから大丈夫だと笑った。(08:02)
近頃すごく寒い。
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じっと考えていると、瞬く間に週末が終わってしまった。鍋の誘いを断り、酒も断り、そのほとんどを一人で過ごした週末。今日は朝から雨が滴り、宛ても無く広がりゆく自室の床に寝転がって天井を見上げてみたり、珍しく筋力トレーニングを丁寧に行ったりした。ただ一人の人間に支配されて身動きが取れなくなったぼくの何某とは裏腹に、彼女の何某はまるで気にもなっていないようだ。少なくともぼくにはそう見える。
なんだかみっともないのだ。そう思う。筋が埋まって見えなくなった腹を撫でながら考える。何も手に着かない。それはけれども、ふわふわと不安定に浮遊するような状況が続いているからで、これがきちんと決着されさえすれば、ぼくはきちんとまたもとのように歩むことができるはずなのだ。何しろずっと酔っ払っているようなのだ。そうしてそれは、誰に因るものでもないのだ。ただ時間が過ぎるのを待つしかなく、そうしている間にきっと秋は終り、為す術もないままに、冬が空から緞帳のように降りてくるのだろう。足元に重たく薄く伸びたその匂いは、乾いた街を滑るようにして、ぼくのことを忘れてしまうのだろう。
ぼくは一体、何を望むものだろう。ぼくは結句一人では駄目なのか?虚しい気持のまま、夜の街に出かけようと思った。(20:11)
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塵のような雨がときおり街灯に照らされて白くぼうっと光る。寒さの中、パーカーのフードを被って身をかがめ、煙が帯になって竜のように空に浮かんでいく様を眺めていた。うねりながらそれは明りひとつない黒い色をした空にむかって昇って行った。ぼくはその竜をめがけ、口に残る煙を吹きかけた。気が付くと傍らに猫が座っていた。彼はぼくをじっと見ていた―たまたまそのように見えただけかもしれない。ぼくは嫌な気分になって立ちあがり、部屋に戻った。彼女の匂いを思い出しながら。(23:52)
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塵のような雨がときおり街灯に照らされて白くぼうっと光る。寒さの中、パーカーのフードを被って身をかがめ、煙が帯になって竜のように空に浮かんでいく様を眺めていた。うねりながらそれは明りひとつない黒い色をした空にむかって昇って行った。ぼくはその竜をめがけ、口に残る煙を吹きかけた。気が付くと傍らに猫が座っていた。彼はぼくをじっと見ていた―たまたまそのように見えただけかもしれない。ぼくは嫌な気分になって立ちあがり、部屋に戻った。彼女の匂いを思い出しながら。(23:52)
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