2013/10/24

レーズンベーグルの時間

 眠気はある。眠たいとは思う、けれども寝つけない。暗闇の音がじいっと耳をつんざいて、壁で反射したそれとさらに追ってくるものとが共鳴して振幅はますます増長し、みるみる大きな雑音となってぼくを睡眠から遠ざける。ぼくはそのたびに寝返りをうったり、別のことを考えようとする。けれども無駄だ。彼方からやってくる得体のしれぬその波はぼくの部屋の中で無限大に増幅し続ける。ぼくはたまらず音楽をかける。少し和らぐ、でも、それだって無駄だ。曲が終わればノイズは思い出される、束の間、それを隠しているだけに過ぎない。

 この生活から脱却するためには、この状況から脱却する必要がある。しかしぼくにはその術がない。それがぼくの弱いところだ。ぼくはぼくの力でここから脱け出すことができない。


 よくものごとを忘れる。記憶力が無いことを自負している。もしかしたらそれは、無意識のうちで忘れようとしているのかもしれない。過去とは、記憶とは、結局のところ自分を苦しめるものでしかないということを、ぼくはぼくの意志とは無関係に行っているのかもしれない。


 口の中がとても渇く。中学で一緒だった女の子の噂を聞いた。彼女は誰とでも寝るらしい。ぼくの旧友のうちの何人かも、彼女と寝ているのだという。ぼくは嫌な気分になった。誰も信じることはできないと思った。別に悪いことではないだろう。しかし、どうしてそれを酒の肴にできるのだろう。ぼくには理解ができなくて、笑えなかった。彼らは乳房の話をしていた。下劣だと心から思った。きみたちは日ごろから全裸でいたらどうなんだ?品性の問題だ。


 品性の問題なのだ。そうして品性とは、ただしい認識に基づくものであるはずだ。


 ぼくは今、とても気分が悪い。誰とも話したくないし、誰にも会いたくない。でもそうはいかない。明日は朝から授業だし、夜には研究会でグループワークだ。はっきり言って、嫌で仕方ない。だって眠れないのだ。ノイズは豪雨のように降り注ぎ、ぼくには息継ぎをする暇さえ与えられていない。

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