2013/04/21

檸檬

 僕にしては珍しいくらいに長い文章を書いて、すぐに消した。便利なもので、CtrlとAとを同時に押して、そのあとでバックスペースをはねれば全てが霧消してしまうのだ。物語はゆっくりと弧を描いて空を貫き、地面に触れ、そして蒸発するように失せてしまった。僕は空き缶の底のような気分になる。暗くて、固くて、それでいて湿っぽい。

 少なくとも、僕には事実として挙げられることが一つある。三年前の僕は、今の僕よりもずっと若かったということだ。とりもなおさず、僕は透明であった。今となっては何ものとも比べることができない。しかし僕の記憶には、遠く離れた場所には、確かにその感覚が見えるのだ。

 僕にはそれを取り戻すことはできないと思っていた。けれども、それは間違いなのかもしれない。朝から続いていた雨が上がって、僕はそんな風に考えた。何かが変わるとすれば、それは今だった。呼吸を整えて、ゆっくりと目を閉じる。

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